【専門医がわかりやすく解説】心筋梗塞の予防について

心臓の病気として多くの人が患う「心筋梗塞」の予防について説明いたします。

私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。

資格としては、

「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師

「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師

などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。

インターネットには「心筋梗塞」に関する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。

👇心筋梗塞のまとめを記載した記事です。これを読めば心筋梗塞についてはおおまかにご理解いただけると思います。ぜひ参考ください。

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目次

退院後

前回の記事で説明したカテーテル治療とその後の入院生活を受けた後の退院後のお話です。

退院後、心筋梗塞の患者さんは通院が必ず必要です。薬の処方や定期的な採血検査などで再発予防が必要です。

退院後、どこに通院するかは入院した病院の方針や主治医の意向、患者さんの状態で決定されます。

軽症心筋梗塞の場合

軽症心筋梗塞の場合、ほぼ日常生活に支障がでない状態です。

そのような患者さんは、基本的には、クリニックや医院などのお住まいの近くの開業医を紹介されるケースが多いと思います。

開業医に紹介する理由は、カテーテル治療が可能な病院の多くは非常に患者さんが多く、紹介していかないと外来が回らないということに尽きます。

カテーテル治療ができる病院に求められる役割は、「外来」ではなく「カテーテル治療」なので重点を「カテーテル治療」におきたいわけです。

外来が長引いたり、外来に割く時間が多いと、救急患者さんが来院された時に対応できる医師が減ったり、対応できなかったりするので非常に非効率ですし患者さんに不利益となります。

カテーテル治療ができる病院に勤務している医師の多くは、(おそらく)外来よりはカテーテル治療が好きで、外来は不得意だと思います

ですから、役割分担で、外来は得意な「開業医」の先生にお任せする方が効率的なのです。

しかも、だいたい、カテーテル治療ができる病院の多くは、患者さんでごった返していることがおおいので、診察までの待ち時間が非常に長いと思います。その点で、ストレスを溜めないためにも、時間がそれほどかからない開業医への受診をお勧めしています

採血や心電図の簡単な検査は、病院はどこであれ、そこまで変わりません。すぐ結果が出るかどうかは軽症の患者さんの定期診察にはあまり影響はありません。

中等症〜重症の心筋梗塞の場合

中等症から重症の場合は、状況によりますが、カテーテル治療を受けた病因の外来で定期診察を受けることが多いと思います。

退院してしばらく外来通院していただいて数ヶ月〜1年経過して「もう大丈夫!」となったときに開業医をご紹介するケースはあると思います。私もそうしています。

心筋梗塞以外にも、腎臓がわるかったり、糖尿病がひどく悪かったり、さまざまな合併症を併発している時は、さまざまな科の受診が必要となりますので、いろんな科の医師と連携しながら管理させてもらうことにもなります

重症の患者さんは、採血検査、胸部レントゲン写真、心電図など毎回たくさん検査が必要になるので、診察が終わるまで待ち時間も含めてすごく時間がかかります。検査ブースごとに待ち時間も発生しますので、患者さんには負担をかけてしまいますが、重症の管理はそれほど注意が必要なんです。

なぜそこまでしっかり管理する必要があるのでしょうか?それは、心筋梗塞は再発しやすいからです。次の項で説明します。

再発予防の重要性

2018年の急性心筋梗塞の発症は年間約75,000人と報告されており、カテーテル治療で一命を取り留めることができても、約27~40%の患者さんが治療後3年間に心血管関連イベントを再発しています(1-3)。

「心筋梗塞」は、心臓に酸素や栄養を送っている「冠動脈」という太い血管が詰まり、血液が流れなくなることで、心臓を動かす筋肉の一部が壊死してしまう病気です。発症直後に亡くなる場合もあります。

詰まった血管を治療して血液の流れを回復させることができても、壊死してしまった心筋は元には戻りません。もし、もう一度心筋梗塞が起これば、さらに広い部分が壊死していくことにもなりかねません。「壊死する」というのは、「腐る」というイメージに近いと思います。実際、心筋梗塞直後の心臓の筋肉細胞は豆腐のようにふにゃふにゃになってしまっています。

複数回心筋梗塞を起こすと、かなりの部分が「腐る」ことになるので、日常生活に支障が出てきます。

さらに、心筋梗塞を起こしたことがある人は、起こしたことがない人よりも、心筋梗塞を繰り返したり、心臓がだんだん悪くなり命を縮める「心不全」などを起こしたりするリスクが高いことが分かっています(4)。そのため、一度心筋梗塞を起こした人は、さらに注意して再発を予防することが大切なのです。

👇心不全については、過去記事を参照してください。

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予防について

退院後の生活習慣の改善は再発予防において非常に重要です。

禁煙と肥満、体重管理、食事療法、運動療法、血圧管理など患者さんご自身でやっていただくことが重要です。

それぞれに解説していきます。

喫煙

禁煙あるのみ!

喫煙は心血管疾患の独立した危険因子であり、タバコにより動脈硬化が進展することは明らかです。

たとえ少量の喫煙であっても再発リスクは増大するため、リスクが高い患者さんに対しては禁煙を強く推奨されます

また、受動喫煙も心血管イベント増加に関与することから、各家庭や公共施設,職場などで受動喫煙
を回避することは非常に大事です。

禁煙が心血管イベントを有意に抑制することはこれまでの研究から明らかなので、

「禁煙あるのみ!」

です。

なかなか禁煙できないという患者さんには、禁煙治療としてニコチン依存性に有効な禁煙補助薬(ニコチン貼付薬、ニコチンガム、バレニクリン)がありますので、主治医にご相談ください。

肥満と体重管理

BMIが25以上を肥満としています。

BMIとは肥満指数のことで、体重➗身長(m)➗身長(m)で算出されます。

ガイドライン(5)では、

正常体重(18.5 BMI < 25)の患者に対しては体重の維持

肥満患者に対しては 3~6ヵ月間で 3% 以上の体重減少

を指導する

とされています。

心筋梗塞による死亡と BMI の関連として、BMI が 20.0 ~ 22.4 のときに死亡リスクが最も低くなり、やせ(BMI 15 未満)や肥満(BMI 27.5以上)では死亡リスクが高くなると報告されています

極度の痩せすぎも心臓には良くないですね。

高血圧

・若年の患者で は血圧130/80 mmHg未満

・高齢の患者では血圧140/90 mmHg 以下

を目標にすることを推奨する

ガイドラインで目標値を設定するにあたって、さまざまな「試験」を解析しその結果から数値を導き出しています。「試験」とは、問題を解くテストではなく、対象となる疾患の患者さんを集めて、”A”という治療がいいのか、”B”という治療がいいのかなど比較する研究のことを指します。

ガイドラインで参考にされる「試験」ともなると、非常にレベルが高い「試験」で、患者さんの数も千〜万例を集めたり、その試験の結果が掲載される「雑誌」もハイレベルだったり、「試験」そのものをする費用が○億円かかったりしています

私も比較的大きな臨床試験に関わったことがありますが、50億円くらいかかっていました。ガイドラインを変えるほどのインパクトをもたらすとなると、その試験を企画、実行、結果を出すことは非常に大変なことなんです。

さた、上記の高血圧の目標値を設定するにあたって参考にされた試験について説明します。

SPRINT試験という米国での血圧の試験がありました(6)。50歳以上の高血圧患者を対象に、収縮期血圧140 mmHg未満を目指した標準降圧群と、120 mmHg未満を目指した厳格降圧群に分け、心筋梗塞や脳卒中、心不全、心血管死などの発症に差があるかどうかを見たものです。

その結果は、なんと厳格降圧群において心血管イベントの発生が25%低下し、総死亡も27%低下するという衝撃的なものでした。心血管イベントとは、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞を起こすことを言います。

つまり、「血圧を十分に下げることが非常に大事」ということが示唆されます。

しかし、これは主に米国で行われた試験であり、そのまま日本に当てはめられないということや、日本においては、冠動脈疾患を有する高血圧患者を対象とする積極的降圧治療のエビデンスは乏しいということから、間をとって無難な上記の目標値が設定されています。

糖尿病

合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満。

糖尿病に関しては下げすぎは必ずしもいいとは限らない。低血糖のリスクが上がるため。

糖尿病は脳卒中や狭心症などの心血管疾患発症のリスクを約2~4倍上昇させると報告されています。

糖尿病を患っている心筋梗塞患者さんの死亡率や再発イベント率が高いことも明らかになっています。

厳格な血糖コントロールによる介入試験であるACCORD試験(7)などが実施されましたが、数年間の介入でも心血管イベントの発症は抑制できず、さらにACCORD試験では厳格な血糖コントロールをおこなった患者群で有意な死亡率の上昇を認めました。この理由は、厳格な血糖管
理が低血糖を誘発し、低血糖が死亡を誘発したと推測されています。

すなわち、糖尿病においては、下げれば下げるほどいいというわけではないので明確な目標値がなく、個々の患者さんの背景やさまざまな因子を考慮し目標値を定めていく必要があります

日本では、「糖尿病診療ガイドライン2016」では、合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満を目標値とした、ざっくりとした感じになっています。

近年、フォシーガ®(ダパグリフロジン)やジャディアンス®(エンパグリフロジン)に代表されるSGLT2阻害薬とトルリシティ®(デュラグルチド)などのGLP-1受容体拮抗薬は、心血管疾患を有する糖尿病患者さんにおいて心血管イベントの発生を 15%近く,全死亡率を 10~20%低下させ、かつ、低血糖のリスクは最小限に留めており注目されています。私自身もこれらの薬剤の臨床試験に参加したことがあり、有用性を実感しています。ともに心血管リスク低下のための薬剤の一部として推奨されています。

脂質異常症

LDLコレステロールが大事。LDLコレステロールは低ければ低いほどよい。

LDL-C 70 mg/dL未満を目標。すくなくとも100 mg/dLは目指さないといけない。

中性脂肪は150mg/dL未満が目標。ただし、中性脂肪を低下させるお薬に関しては明確なエビデンスが不足している(有効な薬剤が定まっていない)

脂質異常症とは、総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪が高い状態、またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態を示す総称です。

2017年に改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、再発予防の患者さんに対しては少なくとも100 mg/dL未満を目標としています。

しかし、家族性高コレステロール血症の患者さん、心筋梗塞を起こした患者さん、糖尿病の患者さんといった高リスクの患者に対しては、LDLコレステロール値の目標値を70 mg/dL未満として、より厳格な脂質低下療法が推奨されることになっています

LDLを低下させる薬剤としてピタバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチンなどの「スタチン」が主流です。時点で「エゼチミブ」です。

ときどき外来で、患者さんに

「LDLが下がったのでやめていいですか?」

とかいう人がいます。

中には、

「かかりつけの先生(不勉強)に、『LDLが低くなったからスタチンは要らないよ』って言われたので飲んでいません」

という仰天発言を聞くことがあります。

LDLが低くなったら良くないことが起きるとか、LDLが低すぎると死亡率があがるとかそういうのは全部デマなので、やめたりせずにスタチンは必ず飲み続けてください

最近では、PCSK9阻害薬であるエボロクマブ(レパーサ®)という注射薬は、LDLを30mg/dLまで低下させ、心血管イベントを有意に低下させたと発表されました(8)。私も多くはないですが、レパーサもハイリスクの患者さんに処方しています。

まとめ

喫煙:禁煙あるのみ

体重管理:肥満患者に対しては 3~6ヵ月間で 3% 以上の体重減少

高血圧:若年の患者で は血圧130/80 mmHg未満、高齢の患者では血圧140/90 mmHg 以下

糖尿病:合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満。糖尿病に関しては下げすぎは必ずしもいいとは限らない。低血糖のリスクが上がるため。

脂質異常症:LDLコレステロールが大事。LDLコレステロールは低ければ低いほどよい。LDL-C 70 mg/dL未満を目標。すくなくとも100 mg/dLは目指さないといけない。

心筋梗塞は再発リスクが高く、その患者さんの健康な面や経済的な面を見ても予防が大事です

よく健康食品を摂っているから、薬は飲まなくても大丈夫などとトンチンカンなことを言っている患者さんがいます。そもそも、その健康食品やサプリを飲んでいても狭心症という病気にかかっているのですから、それらは無意味に近いです。有害のときすらあります。

厳格な「試験」を経て証明された薬剤を信じて飲むことが大事です

また、中等度程度の有酸素運動(ウォーキングなど)を1日につき計30分以上、1週間のうち5日以上
実施することが望ましいです。

繰り返しの心筋梗塞は、どんどん心臓の筋肉細胞が「腐って」いき、日常生活に支障を来します。それを回避するためにも「予防」を頑張りましょう!

参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

👇つぎは心筋梗塞に必要な薬についてです。ぜひ参考にしてください。

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(参考文献)

  1. 厚生労働省:令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況よりhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dL/gaikyouR2.pdf
  2. 日本循環器学会:循環器疾患診療実態調査(JROAD)報告書(2016年度実施・公表、2017年度実施・公表、2018年度実施・公表)より
  3. Ishihara M et al.Circ J 2017; 81: 958-965
  4. The Japanese Coronary Artery Disease (JCAD) Study Investigators. Circ J 2006; 70:1256-1262.
  5. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版): https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf
  6. SPRINT試験:N Engl J ed. 2015; 373: 2103-16
  7. ACCORD試験: N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559
  8. FOURIER試験: N Engl J Med. 2017; 376: 1713-22
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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
②子供の受験のこと(小学6年生 浜学園 公文)
③投資のこと(米国中心の投資について)
④時短家電のこと
⑤論文のこと(論文の読み方、書き方など)

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