心臓の病気として多くの人が患う「心房細動」について説明いたします。
今回は『心房細動の薬』についてです。
心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなど数多くおられます。
かなり厳重に健康管理をされていた人たちでも心房細動に知らず知らずのうちに患ってしまい、最終的に心房細動が原因で脳梗塞を起こしてしまいました。
ただ、知っておくだけでも今後の人生を大きく変える可能性があります。ご自身のためにもなりますし、ご家族のためにもなるかもしれません。
👇心房細動とは一体どういう病気かは以下の記事を参照ください!

私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
インターネットには「心房細動」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
心房細動の治療の種類
心房細動の治療の種類は、おおまかに分けて
薬
カテーテルアブレーション
外科的手術
の3種類あります。
今回は薬についてみていきましょう。
心房細動の薬
心房細動の薬は主に三種類に分けられます。
抗血栓薬=血栓をできにくくすることで脳梗塞を防ぐ
リズムコントロール薬=心房細動を止めてリズムを正常化させるお薬
レートコントロール薬=心房細動は止められないが脈が速くなるのを予防する薬
それぞれについてみていきましょう。
抗血栓薬
心房細動は心臓の中で血が澱んで、血の塊ができてしまいます。それを「血栓」と呼んでいます。
心臓の中で血栓ができると、なんかの拍子に心臓から飛び出して脳の方に飛ぶと「脳梗塞」を起こしてしまいます。

心房細動の脳梗塞は、数ある脳梗塞の中でも最も激烈で、半身麻痺などの後遺症だけでなく死亡にまで至るケースがあり予防は必須です。
抗血栓薬が一番大事ですね。
血栓薬は主には2種類あります。
ワーファリン
昔からある血をサラサラにするお薬です。
もともとは、殺鼠剤(ねずみを駆除する薬)として使われ、食べたネズミが出血死するように利用されていました。
血をサラサラにするのに有効なお薬ですが、非常にデメリットが多いです。
・メリット
値段が安い。1日あたり10円前後。
・デメリット
人によって必要な量が異なる。
量の調整が難しい。
定期的な採血が必要。
納豆やクロレラなど食べ合わせに注意しないといけない。
ワーファリンはデメリットが非常に多いです。安いのはメリットですが。
人によって必要な量が異なりますので、量の調整が必要となります。そのために、PT-INRという項目の採血を定期的にしないといけません。大体1〜2ヶ月に一回は最低でも必要です。
PT-INRというのは、ワーファリンが効果的かどうか確かめるための採血検査です。「2〜3」の間に調整します。ご高齢など出血リスクが高い患者さんは「1.6〜2.5」の間に調整します。
ワーファリンがPT-INRが高すぎる=効きすぎると出血しやすくなりますし、PT-INRが低すぎると効果がなく脳梗塞になりやすくなります。
しかも、食事の影響や薬の相互作用も少なくありません。特に納豆を食べると、ワーファリンの効果が弱まり脳梗塞のリスクが高まります。
そこで、今はワーファリンよりも新しい抗血栓薬が主流になりつつあります。
DOAC:プラザキサ、イグザレルト、リクシアナ、エリキュース
DOACとは[direct oral anticoagulant]の略で、直接作用型経口抗凝固薬と呼ばれます。「ドアック」と呼んでいます。
詳細は理解する必要がないので省きますが、「新しい抗血栓薬」とだけ覚えてください。
・メリット
採血での調整が基本不要。
量は細かく調整不要。
食べ物の影響を考えなくていい
・デメリット
値段が高い。1日あたり400円前後(3割負担なら120円くらい)。
DOACのメリットとデメリットは上にまとめた通りです。
採血で細かい調整は不要で納豆などの影響も受けません。
デメリットは値段が高いことだけですが、ワーファリンの10〜20倍はします。

リクシアナ
リクシアナはリスクの高い高齢者でも使えると最近の日本の研究結果(ELDERCARE AF)で分かりました(*)。
その研究から出血しやすい心房細動を有する超高齢者(80歳以上)に対してリクシアナ15mgは、出血を増やすことなく脳梗塞を予防できたと報告されました。
ですので、80歳を超える高齢者で出血しやすいリスクがある心房細動患者さんには、リクシアナ15mgを投与することが望まれます。(*必須であるという意味ではありません)
この研究は私も医師として参加したので非常に感慨深い結果でした。
リズムコントロール薬
心臓に直接作用して、心房細動の発作を止めたり、心房細動の発作を予防したりする薬です。
心房細動は、心拍数(脈)が不規則になる不整脈と呼ばれる症状の1つなので、リズムコントロールに使用される薬は、抗不整脈薬とも呼ばれます。
注射薬も豊富にありますが、一般的には飲み薬として処方されます。
代表的なものとして、サンリズム®️(ピルジカイニド)、アンカロン®️(アミオダロン)、タンボコール®️(フレカイニド)、ベプリコール®︎(ベプリジル)などなど多数の種類があります。
発作性心房細動が出たときに飲むようにすると発作を止められたり、心房細動を出にくくしたり予防効果もあります。
ただ、どの薬も非常に「クセ」が強いお薬です。「クセ」とは、副作用がさまざまという意味です。
特に高齢者や腎臓が悪い人では、特に不整脈が出やすいので使用できない場合が多いです。
心房細動を止めるどころか、もっと良くない事態を引き起こす可能性すらあるので使用には専門医の判断が必要です。
・心房細動の発作を止めたり、心房細動の発作を予防したりする薬
・サンリズム®️(ピルジカイニド)、アンカロン®️(アミオダロン)、タンボコール®️(フレカイニド)、ベプリコール®︎(ベプリジル)など
・どの薬も非常に「クセ」が強い薬
レートコントロール薬
電気信号を減らして心拍数が速くなりすぎるのを抑える薬です。
心房細動自体を止める薬ではありませんが、心拍数が正常に近づくので、動悸や息切れなどの自覚症状が軽減します。
一般的には、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、β遮断薬などと呼ばれる飲み薬が処方されます。
代表的なものとして
ジギタリス製薬:ハーフジゴキシン®️
カルシウム拮抗薬:ワソラン®︎(ベラパミル)
β遮断薬:アーチスト®︎(カルベジロール)、メインテート®️(ビソプロロール)
が挙げられます。
ジギタリス以外はリズムコントロールのお薬と違って、あまり副作用が強くないお薬で非常によく使われます。
ジギタリスは高齢者や腎臓が悪い人には副作用が強くでるので要注意です。ときどき、薬の濃度を測るために血液検査をします。
β遮断薬は、心房細動を予防する効果もあります。
心拍数が速くなりすぎるのを抑える薬。
ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、β遮断薬などがある。
ジギタリス以外はリあまり副作用が強くないお薬で非常によく使われます。
まとめ
心房細動の薬は主に三種類に分けられます。
・抗血栓薬=血栓をできにくくすることで脳梗塞を防ぐ
・リズムコントロール薬=心房細動を止めてリズムを正常化させるお薬
・レートコントロール薬=心房細動は止められないが脈が速くなるのを予防する薬
抗血栓薬は脳梗塞予防でほぼ必須。
リズムコントロールは発作予防には有効。副作用は多い。
レートコントロールは心房細動そのものは止めないが動悸を抑える。
今回は心房細動のお薬を説明しました。
やはり基本は脳梗塞予防の抗血栓薬です。特性をよく理解して内服するとより効果が高まると思いますので、難しい内容ですが頭の隅にでも入れておいていただけると幸いです。
次はカテーテル治療についてご説明します。

<参考文献>
2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
(*) N Engl J Med. 2020; 383: 1735-45
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