心臓の病気として多くの人が患う「心房細動」について説明いたします。
今回は『心房細動のアブレーション治療』についてです。
心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなど数多くおられます。
かなり厳重に健康管理をされていた人たちでも心房細動に知らず知らずのうちに患ってしまい、最終的に心房細動が原因で脳梗塞を起こしてしまいました。
ただ、知っておくだけでも今後の人生を大きく変える可能性があります。ご自身のためにもなりますし、ご家族のためにもなるかもしれません。
👇心房細動とは一体どういう病気かは以下の記事を参照ください!
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
インターネットには「心房細動」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
心房細動の治療の種類
心房細動の治療の種類は、おおまかに分けて
薬
アブレーション
外科的手術
の3種類あります。
今回は「カテーテルアブレーション治療」についてみていきましょう。
アブレーションとは
アブレーションとは、物理化学的エネルギーを加えて組織を破壊除去してしまう治療法です。
そう聞くと、なんか怖いですよね。
実際は「破壊除去」というものものしくはなく、温めたり、冷やしたり、レーザーを使って、心臓の細胞の一部に障害を与えることで心房細動を起こしている異常な電気信号が発生しないようにする治療です。
エネルギー源としては直流通電、高周波、マイクロ波、冷凍凝固、レーザー、超音波などがあります。
心房細動のカテーテルアブレーションは全国の医療施設で年間およそ6万件以上施行されており、心房細動の根本的な治療(根治術)として、現在一般的に行われているものです(*)。
アブレーションのカテーテルは、直径2-4mmくらいの細長い管を使って治療します。
アブレーションはどこを治療するのか?
心房細動の原因となっている不規則な電気信号は、主に心臓の左心房に続いている肺静脈という血管付近から発生していることがわかっています。
正確にいうと、「左心房に隣接する肺静脈から心房細動が起こる原因となる電気シグナルがでている」ということになるのですが、「心房という場所から心房細動が起こっている」という理解でいいです。
そこで、アブレーション治療では、心房細動の異常な電気シグナルを出していると心臓の筋肉細胞の表面をやけど状態または凍傷状態にして異常な電気信号が伝わらないようにします。
この治療方法のことを「肺静脈隔離術」といいます。これは難しいので特に覚えなくてもいいです。医者の中でも心臓を専門とする医師しかよくわかっていない領域です。
心房細動の起源は肺静脈のことが多いですが、それ以外のところから出ていることもあるのでアブレーションをする際に注意を要します。見落とすと肺静脈を治療したのに心房細動が止まらないというケースもあり得ます。
アブレーションの種類
カテーテルアブレーションとは、心房細動を引き起こす原因となっている不規則な電気信号を止める治療です。
不規則な電気信号が発生する心臓の筋肉細胞の表面をやけど状態または凍傷状態にして、異常な電気信号が伝わらないようにします。
現在、日本では、大きく分けると2種類の方法でアブレーション治療が受けられます。
カテーテルアブレーション:カテーテル(体の中に入る細い管)の先端を使って心筋を1箇所ずつ点状に加熱し治療する
バルーンアブレーション:先端に風船状に膨らむ器具をつけたカテーテルを用いて、膨らませた風船を心筋に密着させ治療する。バルーンアブレーションは治療を行うエネルギーによって、心筋をレーザーで焼灼するタイプ、冷却するタイプ、高周波で加温するタイプの3種類がある。
1つはカテーテル(体の中に入る細い管)の先端を使って心筋を1箇所ずつ点状に加熱し治療する「カテーテルアブレーション」です。
もう1つは、先端に風船状に膨らむ器具をつけたカテーテルを用いて、膨らませた風船を心筋に密着させ治療する「バルーンアブレーション」です。
また、バルーンアブレーションは治療を行うエネルギーによって、心筋をレーザーで焼灼するタイプ、冷却するタイプ、高周波で加温するタイプの3種類に分かれます。
バルーンアブレーション治療は上図の左です。クライオバルーンは冷却するタイプのバルーン治療です。バルーンの接する部分を冷やすことで心筋にダメージを与えます。心房細動の原因となる細胞にダメージを与えることにより心房細動が起こらなくなります。
カテーテルアブレーション治療は上図の右です。カテーテルの先端から熱をだし心筋に火傷を負わせることで、心房細動の原因となる細胞にダメージを与えます。
高周波で点状に加熱する方法
カテーテルの先端を心筋に押しつけて、血管(肺静脈)の入り口を高周波で加熱し、やけど状態にして、異常な電気信号が伝わらないようにする方法です。
上の図で「赤矢印」で白くなっているところは、アブレーションしてできた「火傷の跡」です。
内視鏡バルーンアブレーション
胃カメラのようなカメラ(内視鏡)で確認しながら、レーザーで加熱する方法です。
カテーテルの中に挿入した内視鏡で心臓の中を見ながら、カテーテルの先端についた風船のように膨らむ部分(バルーン)が触れた箇所にレーザーを当てやけど状態にして、異常な電気信号が伝わらないようにする方法です。
クライオアブレーション(冷凍アブレーション)
ガスで冷やされたバルーンで冷却する方法です。
カテーテルの先端についた風船のように膨らむ部分(バルーン)に冷却ガスを入れ、凍傷状態にして、異常な電気信号が伝わらないようにする方法です。
ホットバルーンアブレーション
高周波であたためられたバルーンで加熱する方法です。
やり方はクライオバルーン=冷凍バルーンと同じです。
カテーテルの先端についた風船のように膨らむ部分(バルーン)を水で満たし、やけど状態にして、異常な電気信号が伝わらないようにする方法です。
カテーテルアブレーションとバルーンアブレーションの違い
心房細動に対するカテーテルアブレーション治療において、近年ではバルーン型のアブレーションカテーテルを用いた治療(バルーンアブレーション)が可能となりました。
従来のカテーテルアブレーション治療は、細いカテーテルの先端からエネルギーを流し、心筋を1箇所ずつ「点」で焼灼していますが時間がかかります。
バルーンアブレーション治療は、膨らませた風船を肺静脈付近の心筋に密着させ、バルーンの接地面を一気に焼灼することができますので、点ではなく線で焼くことができるのです。結果として、カテーテルアブレーションより時間が早く終わります。
しかし、バルーンアブレーションは肺静脈が原因での心房細動に対しては絶大な効果を発揮しますが、肺静脈以外から心房細動が出ている場合、治療ができません。肺静脈以外が原因で心房細動が起こっている場合は、カテーテルアブレーションで治療を行います。
カテーテルアブレーションにかかる費用
カテーテルアブレーションは、手術の道具代だけでも200万前後かかります。すごく高いです。それに入院や検査費用や薬などを加えると、一般的には3割負担で自己負担額が100万円前後かかってしまいます。
そのため、「高額療養費制度」を利用することをお勧めします。医療保険制度の1つである高額療養費制度を利用することで、月の医療費負担が軽減します。
高額療養費制度とは、1ヵ月の医療費の自己負担額が高額になってしまった場合、自己負担限度額を超えた分は払い戻しを受けられる国が定めた制度です。自己負担限度額は、年齢や収入によって異なりますので、詳しくは、ご自身が加入されている医療保険をご確認ください。
カテーテルアブレーションまでに必要な検査
アブレーションするには精密な検査が必要です。
心臓の中でいろいろな道具を挿入し治療しますから、心臓の形、心奇形がないか、心臓以外に異常がないか、そして、心臓の中に血栓があるかないかなどを確認しないといけません。
特に心臓の中に血栓があると、アブレーションはできません。血栓があるとアブレーション中に血栓が脳に飛んでしまいます。
どんな検査が必要か見ていきましょう。
心エコー検査
心エコー検査では、超音波を使って、心臓の形・大きさ・機能や血液の流れを調べます。
プローブ(探触子)と呼ばれる超音波の発信と受信を行う機械を胸に押し当てたり、移動させたりしながら、心臓の様子を観察します。
ただし、通常の心エコー検査では、心臓の血栓があるかないかは正確にはわかりません。
ですから、血栓があるかないかを確認するには、次の経食道心エコー検査が必要となります。
経食道心エコー検査
超音波を発する細長い管を飲み込んで、心臓の裏から心臓の様子を観察します。
心エコー検査よりも心臓に近い位置から超音波を当てることができるので、心房に血栓ができているかどうかなど、より詳しい心臓の様子を知ることができます。喉に麻酔をかけて行います。
経食道心エコー検査は、胃カメラよりもすこし太い管を飲み込む必要がありますので、胃カメラよりしんどい検査になります。ただ、喉に麻酔をかけますし、点滴でも麻酔薬を投与しますのでうとうとした状態で検査をすることで、苦痛の軽減を試みています。
検査としては、一番しんどい検査になるとおもいます。
心臓CT検査
CTを使って心臓の形、心奇形がないか、心臓以外に異常がないかなどなど詳細に分析します。
造影剤というお薬を使いますので、造影剤アレルギーがある方は基本的にできないことが多いです。
心臓CTを撮ることでアブレーションをやりやすくするメリットがあります。
上の図はCTをアブレーションに利用しています。CTと融合することでアブレーションをスムーズに進めることができます。
まとめ
今回は、カテーテルアブレーションの原理、種類、費用、事前検査についてご説明しました。
・アブレーションとは、心房細動を起こしている原因部位を熱や冷却することで障害を与え心房細動を起こらなくする治療のことである。
・アブレーションには、カテーテルアブレーションとバルーンアブレーションの2種類ある。
・アブレーション前には、心エコー、経食道心エコー(しんどい)、心臓CTなどが必須。
・アブレーションの費用は、3割負担で100万円前後かかる。ただし、高額療養費制度を使えばかなり減免される。
要点は上記のようになっています。
アブレーションを文字と絵だけで説明するのは非常に難しいですし、一般の方が理解するにはかなり難しい内容だと思います。
全部をすべて理解する必要はありませんが、だいたいこんな感じというくらいで読んでいただければ騒いです。
次は、カテーテルアブレーションの治療の流れおよび起こりうる合併症、再発リスクなどを説明したいと思います。
<参考文献>
2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
(*)一般社団法人日本循環器学会 循環器疾患診療実態調査(2016年度実施・公表)より
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