【専門医がわかりやすく解説】狭心症の予防法について

今回も心臓の病気として多くの人が患う「狭心症」について説明いたします。今回は、特に”予防”についてです。

ここでは、緊急を要さない「安定狭心症」の治療について説明します。緊急を要する「不安定狭心症」や「心筋梗塞」の治療については別で扱います。「安定狭心症」と「緊急を要する不安定狭心症と心筋梗塞」は全く別物なので。

前回の記事では、症状、原因や検査について書いてます。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

👇狭心症のまとめ記事です。こちらを読めば大体わかるようになっています。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

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私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。

資格としては、

「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師

「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師

などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。

インターネットには「狭心症」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。

目次

狭心症患者さんは再発リスクが高い!

冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞の総称)を起こしたことがある患者さんは、まったく起こしたことがない人に比較して再発リスクが高く、生活・運動習慣、食事療法、薬物療法を含めた予防が重要です。

一般的に高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病(CKD)、喫煙などが冠動脈疾患の危険因子(リスクファクター)と呼ばれていて、それぞれに対してしっかりとした治療が必要です。

また、狭心症を発症しカテーテル治療まで受けると多額の入院費がかかります。ちなみに心筋梗塞だともっとかかります。ですので、その予防は臨床的にも医療経済的にも意義が大きいと言われています。

それぞれのリスクファクターに対する予防の重要性と実際について日本循環器学会のホームページに掲載されている「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」に沿って、説明していきます。

高血圧

・若年の患者で は血圧130/80 mmHg未満

・高齢の患者では血圧140/90 mmHg 以下

を目標にすることを推奨する

ガイドラインで目標値を設定するにあたって、さまざまな「試験」を解析しその結果から数値を導き出しています。「試験」とは、問題を解くテストではなく、対象となる疾患の患者さんを集めて、”A”という治療がいいのか、”B”という治療がいいのかなど比較する研究のことを指します。

ガイドラインで参考にされる「試験」ともなると、非常にレベルが高い「試験」で、患者さんの数も千〜万例を集めたり、その試験の結果が掲載される「雑誌」もハイレベルだったり、「試験」そのものをする費用が○億円かかったりしています

私も比較的大きな臨床試験に関わったことがありますが、50億円くらいかかっていました。ガイドラインを変えるほどのインパクトをもたらすとなると、その試験を企画、実行、結果を出すことは非常に大変なことなんです。

さた、上記の高血圧の目標値を設定するにあたって参考にされた試験について説明します。

SPRINT試験という米国での血圧の試験がありました(2)。50歳以上の高血圧患者を対象に、収縮期血圧140 mmHg未満を目指した標準降圧群と、120 mmHg未満を目指した厳格降圧群に分け、心筋梗塞や脳卒中、心不全、心血管死などの発症に差があるかどうかを見たものです。

その結果は、なんと厳格降圧群において心血管イベントの発生が25%低下し、総死亡も27%低下するという衝撃的なものでした。心血管イベントとは、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞を起こすことを言います。

つまり、「血圧を十分に下げることが非常に大事」ということが示唆されます。

しかし、これは主に米国で行われた試験であり、そのまま日本に当てはめられないということや、日本においては、冠動脈疾患を有する高血圧患者を対象とする積極的降圧治療のエビデンスは乏しいということから、間をとって無難な上記の目標値が設定されています。

糖尿病

合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満。

糖尿病に関しては下げすぎは必ずしもいいとは限らない。低血糖のリスクが上がるため。

糖尿病は脳卒中や狭心症などの心血管疾患発症のリスクを約2~4倍上昇させると報告されています。

糖尿病を患っている狭心症患者さんの死亡率や再発イベント率が高いことも明らかになっています。

厳格な血糖コントロールによる介入試験であるACCORD試験(3)などが実施されましたが、数年間の介入でも心血管イベントの発症は抑制できず、さらにACCORD試験では厳格な血糖コントロールをおこなった患者群で有意な死亡率の上昇を認めました。この理由は、厳格な血糖管理が低血糖を誘発し、低血糖が死亡を誘発したと推測されています。

すなわち、糖尿病においては、下げれば下げるほどいいというわけではないので明確な目標値がなく、個々の患者さんの背景やさまざまな因子を考慮し目標値を定めていく必要があります

日本では、「糖尿病診療ガイドライン2016」では、合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満を目標値とした、ざっくりとした感じになっています。

近年、フォシーガ®(ダパグリフロジン)やジャディアンス®(エンパグリフロジン)に代表されるSGLT2阻害薬とトルリシティ®(デュラグルチド)などのGLP-1受容体拮抗薬は、心血管疾患を有する糖尿病患者さんにおいて心血管イベントの発生を 15%近く,全死亡率を 10~20%低下させ、かつ、低血糖のリスクは最小限に留めており注目されています。私自身もこれらの薬剤の臨床試験に参加したことがあり、有用性を実感しています。ともに心血管リスク低下のための薬剤の一部として推奨されています。

脂質異常症

LDLコレステロールが大事。LDLコレステロールは低ければ低いほどよい。

LDL-C 70 mg/dL未満を目標。すくなくとも100 mg/dLは目指さないといけない。

中性脂肪は150mg/dL未満が目標。ただし、中性脂肪を低下させるお薬に関しては明確なエビデンスが不足している(有効な薬剤が定まっていない)

脂質異常症とは、総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪が高い状態、またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態を示す総称です。

2017年に改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、再発予防の患者さんに対しては少なくとも100 mg/dL未満を目標としています。

しかし、家族性高コレステロール血症の患者さん、心筋梗塞を起こした患者さん、糖尿病の患者さんといった高リスクの患者に対しては、LDLコレステロール値の目標値を70 mg/dL未満として、より厳格な脂質低下療法が推奨されることになっています

LDLを低下させる薬剤としてピタバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチンなどの「スタチン」が主流です。時点で「エゼチミブ」です。

ときどき外来で、患者さんに

「LDLが下がったのでやめていいですか?」

とかいう人がいます。

中には、

「かかりつけの先生(不勉強)に、『LDLが低くなったからスタチンは要らないよ』って言われたので飲んでいません」

という仰天発言を聞くことがあります。

LDLが低くなったら良くないことが起きるとか、LDLが低すぎると死亡率があがるとかそういうのは全部デマなので、やめたりせずにスタチンは必ず飲み続けてください

最近では、PCSK9阻害薬であるエボロクマブ(レパーサ®)という注射薬は、LDLを30mg/dLまで低下させ、心血管イベントを有意に低下させたと発表されました(4)。私も多くはないですが、レパーサもハイリスクの患者さんに処方しています。

喫煙

禁煙あるのみ!

喫煙は心血管疾患の独立した危険因子であり、タバコにより動脈硬化が進展することは明らかです。

たとえ少量の喫煙であっても心血管リスクは増大するため、再発予防患者さんやリスクが高い患者さんに対しては禁煙を強く推奨されます

また、受動喫煙も心血管イベント増加に関与することから、各家庭や公共施設,職場などで受動喫煙
を回避することは非常に大事です。

禁煙が心血管イベントを有意に抑制することはこれまでの観察研究から明らかなので、

「禁煙あるのみ!」

です。

まとめ

高血圧:若年の患者で は血圧130/80 mmHg未満、高齢の患者では血圧140/90 mmHg 以下

糖尿病:合併症予防の観点よりHbA1c 7.0%未満。糖尿病に関しては下げすぎは必ずしもいいとは限らない。低血糖のリスクが上がるため。

脂質異常症:LDLコレステロールが大事。LDLコレステロールは低ければ低いほどよい。LDL-C 70 mg/dL未満を目標。すくなくとも100 mg/dLは目指さないといけない。

喫煙:禁煙あるのみ

狭心症などの心血管疾患イベントは再発リスクが高く、その患者さんの健康な面や経済的な面を見ても予防が大事です

よく健康食品を摂っているから、薬は飲まなくても大丈夫などとトンチンカンなことを言っている患者さんがいます。そもそも、その健康食品やサプリを飲んでいても狭心症という病気にかかっているのですから、それらは無意味に近いです。有害のときすらあります。

厳格な「試験」を経て証明された薬剤を信じて飲むことが大事です

また、中等度程度の有酸素運動(ウォーキングなど)を1日につき計30分以上、1週間のうち5日以上
実施することが望ましいです。

繰り返しのカテーテル治療は、どんどん複雑になってくるのでリスクも増大します。それを回避するためにも「予防」を頑張りましょう!

参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

👇つぎは「狭心症で治療を受けるべき病院の見分け方」です。ぜひ参考にしてください。

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参考文献

(1)慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版): https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf

(2)SPRINT試験:N Engl J ed. 2015; 373: 2103-16

(3)ACCORD試験: N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559

(4)FOURIER試験: N Engl J Med. 2017; 376: 1713-22

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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
②子供の受験のこと(小学6年生 浜学園 公文)
③投資のこと(米国中心の投資について)
④時短家電のこと
⑤論文のこと(論文の読み方、書き方など)

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