注目キーワード
  1. 中学受験
  2. 循環器
  3. 精神科
  4. 投資
  5. 副業

【専門医がわかりやすく解説】狭心症の薬物治療について

今回も心臓の病気として多くの人が患う「狭心症」について説明いたします。特に、薬物治療についてです。

ここでは、緊急を要さない「安定狭心症」の治療について説明します。緊急を要する「不安定狭心症」や「心筋梗塞」の治療については別で扱います。「安定狭心症」と「緊急を要する不安定狭心症と心筋梗塞」は全く別物なので。

前回の記事では、症状、原因や検査について書いてます。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

👇狭心症のまとめ記事です。こちらを読めば大体わかるようになっています。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。

資格としては、

「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師

「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師

などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。

インターネットには「狭心症」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。

狭心症の治療について

心臓を専門とする医師は誰しもが「日本循環器学会(JCS)」という組織に属しています。

どの専門科の学会でも各々ガイドラインを出していることが多く、「狭心症」に対しても日本循環器学会からガイドラインが発表されています。数年ごとに改訂を繰り返しています。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Nakano.pdf

ガイドラインとは、「治療の道標」的な存在です。多くのエビデンスから成り立っています。ただ、医療は日進月歩進んでいますので、必ずしもガイドラインが最新とは限りません。しかしながら、多くの医師はガイドラインを守りながら治療を進めていると思います。

今回はこのガイドラインと実際の臨床をうまく噛み砕きながら説明したいと思います。

薬物治療かカテーテル治療か

前回の記事で説明しましたが、外来でできる検査である心臓CTと心筋シンチで狭心症が強く疑われた場合、医師から「カテーテル治療した方がよい」と説明を受けることが多いでしょう。

しかし、緊急治療を要さない安定狭心症の場合はまずは薬物治療が優先されます

ガイドラインを引用しますと、下図のように表されますが一般の方には難しいと思いますので、わかりやすく解説します。 *注:CCTAは心臓CTのことで、負荷イメージングは心筋シンチのことを指します。LMCA/LMCA相当病変というのは左主管部病変という意味で、心臓の中で最も重要なところに狭窄があるということを表しています

要約すると、

CT(CCTA)や心筋シンチ(負荷イメージング)を行なった後に、

LMCA以外は、まずは薬物治療が優先されます。

つまり、大部分の安定狭心症は「至適薬物治療」すなわち「お薬での治療」が優先されます。

担当の医師に「入院でカテーテル検査(侵襲的冠動脈造影検査のこと)をすぐにしましょう!」と言われても必ずしも正しくはないので注意を要します。医師の中には、手術数を稼ぎたいがあまり盲目的にカテーテル治療を勧めてくることもあり得ますし、また、最新のガイドラインを勉強してない可能性もあります。

LMCA病変が疑われた場合は、「入院でカテーテル検査(侵襲的冠動脈造影検査のこと)をすぐにしましょう!」となります。これは急いだ方がいいです。LMCAは人間の身体で言うと、「のどもと」にあたります。ここに病気(狭窄)があると、致命的になるケースがありうるからです。

①LMCA以外の場合:まずは薬物治療が優先されます。

②LMCAの場合:すぐに入院でカテーテル検査。

薬物治療(至適薬物治療)について

優先される薬剤について説明します。症状緩和薬と予防薬に二つに分類されます。

症状緩和薬

β 遮断薬(ベータしゃだんやく)またはカルシウム拮抗薬が第一選択となります。

β遮断薬としてよく使われるのは、カルベジロールやビソプロロールなどです。これらの薬は心臓の負担を和らげる効果があります。

カルシウム拮抗薬としてよく使われるのは、ニフェジピンなどです。この種類の薬は、冠動脈(心臓の周りの血管)を拡げて血流をよくする働きがあります。

短時間作用型の硝酸薬(ニトロ)も症状緩和には有効です。

ニトロは「胸が痛くなった時に飲んでください」と説明し患者さんにお渡しします。胸が痛くなりニトロを内服すると5分以内で症状が和らいだ場合、狭心症の可能性が高くなります。診断的治療薬としても有効です。

予防薬

予防薬としては、血をさらさらにする抗血栓薬、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを低下させる脂質低下薬、高血圧を治療する降圧薬、および糖尿病を治療する血糖降下薬があります。今回は特に重要な「抗血栓薬」と「脂質低下薬」について説明します。

抗血栓薬

血をさらさらにして固まりにくくする抗血栓薬は非常に大切です。

もっとも使用する薬剤は「バイアスピリン」です。これはアスピリン100mgが主成分で血をサラサラにして血栓ができにくくなります。動脈硬化で血管が細くなったところには、血栓ができやすいからです。

ただ、胃潰瘍になることもあるので胃薬と併用されます。

脂質低下薬

悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを低下させる脂質低下薬は非常に重要です。

LDLコレステロールは低ければ低いほど予防効果は高いので、できればLDLコレステロールは70mg/dl未満を目指したいです。

使用するお薬は、「ピタバスタチン」「ロスバスタチン」「アトルバスタチン」などのスタチン系と呼ばれる薬が主となります。

家族性高コレステロール血症と呼ばれる遺伝的にLDLコレステロールが高くなる患者さんには、ゼチーア(エゼチミブ) またはPCSK9阻害薬と呼ばれる注射薬(レパーサ)が必要になることがあります。

生活習慣の改善

禁煙、健康な食事、そして運動などを含む生活習慣の改善の遵守は狭心症の予防に重要です。

1回30分間、週3回以上、中等度強度の有酸素運動トレーニングを行うことは、すべての安定狭心症患者さんに推奨されています。

ただ、医師がいくら重要性を指導しても、なかなか守ってくれない…というのが現実ですね。

「タバコはやめれません」

「食事はコンビニ弁当が多いです」

「運動はちょっと・・・」

というのが定番ですが、お金がかからず最も健康になる「治療」なので是非とも実行してください。みなさん、重症になってから後悔しています。

薬物治療からカテーテル検査および治療への切り替え

ガイドラインでは下図のように説明されています。

わかりやすく説明すると、

まずは薬物治療を開始する。

しかし、お薬を4〜8週間継続しても症状が持続する、改善しない場合は、担当医師とよく相談しカテーテル検査や治療をするかどうか決定します。

ガイドラインでは「冠血行再建が考慮される場合は、治療する医師と患者が協働して治療選択する共同意思決定(shared decision making: SDM)を積極的に行っていくべきである」と強調されています。

要は、医者任せにせずに、本当にカテーテル治療が自分自身に必要か納得した上で治療を受けることが大事ということです。

まとめ

今回は、安定狭心症の薬物治療を中心に説明しました。

まれなLMCA病変以外は、基本的には薬物治療を最初に開始します。ここは非常に重要です。

カテーテル治療は、薬を試した後に検討するという流れです。

まずは薬物治療を開始する。

しかし、お薬を4〜8週間継続しても症状が持続する、改善しない場合は、担当医師とよく相談しカテーテル検査や治療をするかどうか決定します。

次回はいよいよカテーテル検査及び治療について説明いたします。

参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

(参考)

冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2013_ogawah_h.pdf

慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf

2022 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Nakano.pdf

Twitterのフォローボタンです。フォローをぜひともお願いします!