【専門医がわかりやすく解説】心房細動のアブレーション治療が必要かどうか

心臓の病気として多くの人が患う「心房細動」について説明いたします。

今回は『心房細動のアブレーション治療が必要なのかどうか』についてです。

心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなど数多くおられます。

かなり厳重に健康管理をされていた人たちでも心房細動に知らず知らずのうちに患ってしまい、最終的に心房細動が原因で脳梗塞を起こしてしまいました。

ただ、知っておくだけでも今後の人生を大きく変える可能性があります。ご自身のためにもなりますし、ご家族のためにもなるかもしれません。

👇心房細動とは一体どういう病気かは以下の記事を参照ください!

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私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。

インターネットには「心房細動」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。

 

目次

心房細動の種類によりオススメ度が異なる

心房細動は進行性の疾患です。進行性の疾患とは、徐々に治りにくくなるというイメージでとらえてください。

早い段階であれば発作性心房細動、少し進んできて1週間以上続くと持続性心房細動、1年以上続くと長期持続性心房細動、さらには治療不可能な心房細動になると永続性心房細動へと名前を変えます。

👇心房細動の種類については前記事で説明していますので参照ください。

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心房細動は進行すればするほど、治りにくくなってきます。つまりは、発作性心房細動は比較的治りやすいですが、持続性、永続性心房細動になると薬やアブレーションでも治療が困難となります。もちろん、抗血栓薬さえ飲んでいれば脳梗塞の予防はできます。

カテーテルアブレーションは根治を目的とした治療法ですが、もちろん限界もあります。

現在は、発作性心房細動であれば1回の治療で8~9割、繰り返し治療すれば95%の人が根治すると言われています。これはすなわち、アブレーション治療を2回以上受けて初めて95%の確率で治癒するという意味です。1回目がうまくいっても再発することがあり、2回目のアブレーションをすることで再発しているところをしっかりアブレーションすることで根治を目指すということです。

1回の入院で2回アブレーションするという意味ではなく、1回目のアブレーションが終わって退院した後に再発した場合に2回目の入院で2回目のアブレーションをするという意味です。

発作性心房細動は2回の治療で95%程度の根治率を得られますが、1年以内の持続性心房細動の場合は、治療効果はおよそ7~8割の根治率に落ちてしまいます。

さらに、長期持続性心房細動になった場合、1回の治療で治る確率は3~4割です

長期持続性心房細動のなかでも比較的持続期間の短い(1~3年程度)ケースでは、5~6割が根治するといわれています。(*)

以上から、心房細動を患っているすべての患者さんにアブレーションをお勧めするわけではないのです。

 

年齢も大事

カテーテルアブレーション治療の適応で重要なのは年齢です。

20~40歳台の人たちには非常に良い適応であると言われています。ただ、20~40歳で心房細動を発症するひとはすごく少ないです。背景に何らかの疾患が隠れているケースも多いです。甲状腺機能亢進症や心筋症、弁膜症などです。そうなるとアブレーションよりも先にそれらの治療を優先したり、同時に治療するということもあります。

一方、70~80歳台の患者さんの場合、心房細動を根治することよりも上手く付き合っていくことも悪い選択肢ではありません。つまりは、症状が乏しければ無理にアブレーションせずに心房細動のままで過ごします。ただし、抗血栓薬だけ飲んで脳梗塞は予防しなくてはいけません。

もちろん、元気で体力のある70歳台の患者さんで心房細動による動悸などの症状で困っている場合は、積極的にアブレーションをお勧めする場合もあると思います

一律、「この年齢はこうしたほうがいい」という明確なラインがあるわけではなく、心房細動の種類、原因、年齢、そして何よりも重要なのは患者さんの希望ということになります。

 

ガイドラインでの推奨度

日本循環器学会のガイドラインでは、以下の図のように推奨されています。

これらは、すべて「症候性」心房細動での推奨度になります。「症候性」とは、「症状がある」心房細動ということになり、症状がない心房細動はあてはまりません。

上の図で、

AFは「心房細動」の略語です。「エーエフ」と呼んでいます。

クラスⅠというのは、「アブレーションが有効であると証明されている

クラスⅡaというのは、「有効である可能性が高い

クラスⅡbというのは、「有効であるかそれほど確立されていない

という意味になります。

図を解釈していきます。

左図

発作性心房細動で抗不整脈薬(心房細動を止めるお薬)を飲んでも効果がない場合は、クラスⅠ、つまりは「アブレーションをお勧めする」ということになります。

また、最初に薬を試さずにいきなりアブレーションすることは、クラスⅡa、つまりは「アブレーションが有効である可能性が高い」とされています。症状がある発作性心房細動は、第一選択としてカテーテルアブレーションを施行することは妥当と考えられています

真ん中図

発症から1年未満の持続性心房細動の場合は、抗不整脈薬を飲んでも効果がない場合は、クラスⅡa、つまりは「アブレーションが有効である可能性が高い」とされます。また、薬を試さずにいきなりアブレーションをすることは、クラスⅡaと同様です。どちらにするかは患者さんの背景や希望などによります。

右図

発症から1年以上経過している長期持続性心房細動の場合は、抗不整脈薬を飲んでも効果がない場合は、クラスⅡb、つまりは、「アブレーションが有効であるかそれほど確立していない」ということになります。アブレーションをしてもある患者さんには効果があるかもしれないし、ある患者さんには一時的な効果しかないかもしれず再発の可能性が高いかもしれないし、ある患者さんには全く効果がないかもしれないという感じです。同様に、いきなりアブレーションを施行することもクラスⅡbで、やってみないとわからないという感じになります。

長期持続性心房細動になると、高齢の患者さんが多いですし、アブレーションするかどうかは患者さんやご家族と十分話し合い、治療するかどうか決定することになります。また、自信がある、あるいは、アブレーションしたくてしょうがない医師は勧めてくるでしょうし、比較的消極的な医師はまずは薬で様子を見ましょうということになるかもしれませんが、いずれにせよ、リスクとベネフィットを天秤にかけて判断していくことになります。

無症状の心房細動の場合

昔のガイドラインでは、 アブレーションの適応は症状がある心房細動のみに限局されていました。

しかし近年、症状の有無にかかわらずアブレーションは心房細動患者さんの予後を改善しうること、ならびに無症状の患者さんの予後が症状がある患者さんよりも悪いことが報告されています。

たとえ 心房細動と診断された段階で自覚症状がなく、とくに何も困っていないとしても、その患者さんの将来的な予後を改善させる可能性があるのであればアブレーションの適応はあると考えられています。

現在、症状がない発作性心房細動に対するアブレーションは広く積極的にされる傾向にあります。

一方、症状がない持続性心房細動においては、アブレーション治療効果の不確実性から考えると、必ずしもアブレーションがいい治療とはいえません。

年齢を考慮し、患者ごとに適応を慎重に考えることが必要であります。

まとめ

<<心房細動の種類や罹患期間によって異なる>>

症状がある発作性心房細動→いきなりアブレーションでもよい

症状がある持続性心房細動(1年未満)→アブレーションが有効である可能性が高い

・症状がある長期持続性心房細動(1年以上)→アブレーションの有効性はわからない

・症状がない発作性心房細動→アブレーションが有効である可能性が高い

・症状がない持続性心房細動アブレーションの有効性はわからない

アブレーションは必ずしも安全というわけではないので、いずれにせよ、必ず主治医とよく相談して決めてください

今回はアブレーション治療が必要かどうか、適応についてご説明しました。

一般的に適応が高いのは,高齢者より若年者,無症候性より症候性心房細動です。

また、進行度の軽い発作性心房細動はアブレーションによる根治率が高いことからお勧めされます。

しかし、再発抑制成績の劣る持続性および長期持続性心房細動は、患者さんの背景、年齢などを十分に吟味して、各患者さんにおいて総合的に判断することが、アブレーション治療の適応を考えるうえで非常に重要です

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

つぎは、アブレーションの合併症についてです。ぜひ参考にしてください。

 

<参考文献>

2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療

2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)

(*)Am Heart J.2011;161:188-96.

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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
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③投資のこと(米国中心の投資について)
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