精神科や心療内科が扱う病気〜うつ病〜入院の必要性や有効性

春からゴールデンウィークにかけて増加するうつ病における入院の必要性や有効性について書いてみたいと思います。

うつ病の概略などについては、過去の記事をご参照ください。

また、春に増加する「春うつ病」については、以前に記事にしましたので参照ください。

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結論から言いますと、

うつは深刻になると、自傷行為、最悪の場合、自殺行為に及ぶので、

入院は必要なケースが少なくなく、さまざまな観点から有効です。

具体的に見ていきましょう

目次

入院の必要性

うつ病は、重症でなければ通院での治療が可能です。数か月から年単位の長い治療期間を必要とすることから、基本は通院による治療が選ばれます。

しかし、「日本うつ病学会治療ガイドライン」によると、以下の場合では入院による治療が検討されます。

  • 自殺企図(自殺を実行する)
  • 切迫した自殺念慮のある場合(死にたいという願望がある)
  • 療養や休息に適さない生活環境
  • 病状の急速な進行が想定される場合

です。

診療していてうつ病の患者さんが入院する一番多い原因は、

やはり「自殺企図」と「自殺念慮」が多い印象です。

幸い、家族や友人などに発見され病院に連れて来られます。危機一髪といった症例も多いです。

あるいは、警察などに発見され救急病院で応急処置後に精神科病院に紹介されるケースがあります。

入院は誰が判断するか?

自殺企図や自殺願望がある場合

基本的には、入院治療が望ましいです。ただ、本人が拒否するケースが多いです。

本人が入院を頑なに拒否する場合、

家族などの保護者が入院を希望する場合、医療保護入院という強制入院の形を取ります。

家族などの保護者の同意が取れないが、入院が望ましいと判断される場合、措置入院という強制入院となります。

どちらも「精神保健指定医」と呼ばれる資格を有する医師の診察が必要となります。ただし、医療保護入院の場合は精神保健指定医は1名で良いのに対して、措置入院は2名の診察と診断が必要になります。

抵抗が強い場合も想定されますので、入院宣告には緊張が走ります

走って逃げ出そうとしたり、錯乱したりするケースも考えなくてはなりません。

自殺企図や自殺願望がない場合

患者さんの希望で入院できるかどうかは、医師の判断が重要ですし病院により対応が異なります。そのため、入院を希望する場合はまず主治医に相談して、入院可能かどうか尋ねる必要があります。

患者さん自身の希望の場合は「任意入院」なります。

通院している病院が入院設備を設けていない場合には、入院先を含めて相談してみるとよいでしょう。

うつ病で入院するメリット

入院すること自体がストレスの回避に直結する

入院治療のメリットの一つは、入院することが治療になることにあります。ストレス要因から物理的に距離をとることが、ストレスを回避することに直結します。

うつ病の診断を受け、通院しながらの自宅療養が続くと、周囲の目が気になって外出できなくなり、自宅に引きこもってしまうケースがあります。そうなると生活リズムが不規則になって、症状を悪化させてしまいます。こうした場合、入院するだけで症状が改善に向かう例もあります

入院初期に心身を休めて「休息の土台」を築く

うつ病で入院する患者は、とにかく多忙だったり頑張り過ぎていたり、過剰に気を使っていたりしています。真面目な人が多いです。

「こんなにゆっくりしていていいんですか、悪い気がします」などと入院後の過ごし方に戸惑う人が少なくありません。そういうときは、とにかく入院初期の段階で身体と脳をしっかり休めることが大事だということを本人に伝えます。

入院初期の休息期は「休息の土台」を築く時期です。本格的な治療が始まる回復期に向けた充電期間でもあります。回復期に入ると、精神的に負荷がかかって疲れることもありますが、その前の段階で、心身をしっかり休ませることができたという〝体感〟を得ることが重要です。それが「休養の土台」づくりになると考えています。

「休養の土台」を築くことによって、休んでいても疲れるという入院前の状態から、動いていても疲れないという状態に変化させていきます

うつ病の治療で専門の医療機関に入院すれば、治療に専念できますし、生活リズムの改善を図ることにもつながります。

症例提示

40代男性

主訴:死にたい(自殺願望)

以前から、入院を必要としないほどのうつ病を患っており、近くのクリニックで通院治療を行なっていました。

仕事は営業職でしたが、上司が自分より年下となったときより、会社への不満とやる気の消失が生じ仕事への気力がなくなっていきます。

「昔からずっと勤務しているのに、なぜ年下が私より優遇されるのか!やってられっかっ!」

と言う感じです。なんとなくわかる気がしないでもないです。

そうなると、営業成績が落ちていき負のスパイラルです。

会社にも居づらくなるし、行きづらいし、楽しくないし…で、退職してしまいます。

家族にも不満をぶつけてしまいます。

「俺の気持ちがわかんのかよっ!」

と奥さんにぶちまけてしまいます。

結果、離婚となってしまいました。

自暴自棄となり「死にたい」とばかり考えるようになりました。

鬱々となり悲観的なことしか考えられなくなり、両親に連れられ受診となりました。

診察時、「死にたい、生きててもしょうがない」としきりに訴えておられました。

ただ、入院は拒絶し「入院したってなんら解決するはずがない!」と激昂されます。

飛び出して出ていきそうなのを必死に説得するも難しく、両親は「死にたい死にたい」と毎日言われ続けられるのが辛く、入院を希望されたため「医療保護入院」となりました。

入院後、薬物治療とともに精神療法(話を傾聴したりする)を開始するも、非常に不満な様子でした。

しかし、時間の経過とともに、表情が明らかに和らいでいきました。

「時間が経つにつれ、死にたいという願望は無くなってきました。」

「迷惑かけたなって思いが強いです。」

「(仕事に)もう一度チャレンジしてみようかなと思ってきています。」

と、前向きな発言を認めるようになってきました。

やがて全く自殺願望がなくなり、自殺企図をしないと約束した上で退院としました。

現実の大きな問題は解決していないものの、距離をとり休息という意味で入院することで症状が改善していった一例でした。

入院し十分に休養することで自分を見つめる時間が生まれます。ストレスを回避し、心身を十分に休め、自分自身を見つめ直し、自己を知る〝気付き〟にもつながります。それが改善につながるのだと思います。

まとめ

春からゴールデンウィークにかけてうつ病が増えていきます。

重症になると「希死念慮」が強くなり、「自殺企図」をしてしまうケースがあります。

「自殺企図」はなんとしてでも防がなければなりません。

早期に気づき、早期に介入することで、良い結果が生まれます。

自宅にいても解決しないことが少なくなく、その場合は入院が良いでしょう。

物理的に距離をとる入院をすることで、ストレスを回避し、心身を十分に休め、自分自身を見つめ直し、自己を知る〝気付き〟にもつながります。その結果、社会復帰に前向きになってきます。

患者さん自身は自ら病院に行くことは多くはないので、できれば周囲、特にご家族が気づいてあげ、遠慮なく精神科や心療内科にご相談ください。

今は昔と違って精神科や心療内科への偏見は減っています。安心してご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
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③投資のこと(米国中心の投資について)
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